大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和24年(ラ)10号 決定

抗告人 三田三郎

右代理人弁護士 馬場次郎

利害関係人 三田助男

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告理由は末尾添付の別紙に記載する通りであつて、これに対する判断は次のようである。

よつて案ずるに、本件記録中の並木年三郎外四名の名義の各証明書にはいずれも被後見人未成年者河田敏彦の後見人である利害関係人がその管理する被後見人所有の数戸の貸家の賃料を取立てたり、借家人等に対し賃貸家屋並びにその敷地の買取方を交渉した事実の記載はあるが、これだけではまだ該事実について疎明があつたとする心証を得るのに十分でないばかりでなく、たとえそのような事実があつたとしても、敍上の行為は利害関係人が自己の利益を図る目的に出たものであることが認められるような疎明がなく、その他抗告理由記載の二の(一)及び(二)の事実を看取するに足りる疎明がなにもない。それから本件記録によると抗告人は前記抗告理由記載の二の(二)の事実を原審で主張しなかつたことが明かであるから、原審がこの点についてなんらの判断を下さなかつたのは当然であり、また前記抗告理由記載の二の(一)について特に具体的に疎明がなかつたように判示していないが、利害関係人に関して「他に後見人として不正な行為著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由を認むべき証正なき限り……」と判示している内に前述の点の判断が包含されているものと解釈することができる。さすれば、本件において利害関係人を解任すべき事由はなにも認められない次第であるから、本件抗告は理由がないといわなければならぬ。

よつて抗告人の後見人解任の申立を却下した原審判は相当で、同審判には他にどこにも違法の点が認められないので、本件抗告を棄却すべきものと認め、抗告費用を抗告人の負担とし、主文の通り決定する。

抗告代理人馬場次郎の抗告理由

一、原決定は単に後見人、被後見人が家を同じくする一事のみで相手方の後見人選任は適切であつて解任申立は理由がないと審判せられたが、此の点に関して抗告人は原裁判所に後見人解任申立に関する上申書を提出し其の後見人である事の適切でない理由を述べたのである。尚昭和二十四年二月一日附陳述書と題する書面を以て甲第一号証乃至甲第五号証の証明書を添付して之が主張を証明したのである。

二、抗告人が原審に後見人解任申立を為した理由は

(一) 相手方である後見人は、後見人就任以前過去に於て再三に亘り弟の遺産を管理してほしいままに之を使途不明にして結局自己所得とした事実がある事

(二) 抗告人が現に抗告状記載の肩書地に居住して居り再三相手方と会合して居るのに拘らず未だ渡支したままであつて内地に帰来せず、依つて相手方が後見人として最適任であるとの理由を申立後見に就任した事実(抗告人を故意に排付した事由)及

(三) 相手方は後見人就任前後より被後見人の財産を相続財産に対する分配請求の調停手続中であるのに拘らず擅に家賃を取立てたり又他に売却処分せんとする行為は後見人として不適任であるとの事実を其の理由にしたのであつた(被後見人が家督相続したのは昭和二十一年十二月二十三日で憲法公布後であるので新民法附則第二十七条に基いて被後見人の弟及被後見人の継母は相続財産に対し其の分配を求めるべく昭和二十三年十月相続財産の分配協議不能による処分申立を当時大津家庭裁判所になしたのである)

三、然るに原審は前記三項目の申立理由に対し単に相続財産を相手方たる後見人が擅に処分せんとして奔走中の事実のみに付て審判し、他の二項目に対して全然判断をして居らない抗告人が原審に於て審問を受けた時、審判官並に参与員に詳細陳述した所である。申立事由の第一の事実は解任申立書に記載している事は明白である。而も原審は其の判断事実とした前記第三の事実に対しても抗告人が昭和二十四年二月一日附提出した第三の事実を証明する陳述書並に添付書類の甲第一号証乃至甲第五号証の説明を加えていない。(此の書類は本却下決定後記録を見るも記録に編綴されていなかつた)

四、要するに原決定は抗告人が後見人解任申立の理由とした事実に対し判断を為さず、又は故意に之を除外して相手方である後見人を選任した見解を維持せんと不当極まる決定を為した許す事の出来ない審判であると確信する。依つて御庁に於て原決定を取消され原審に差戻されるか又は抗告申立趣旨の御決定を仰ぐ次第である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例